京都市・修学院エリアの住宅地にある小さなカフェ「CAFE Uchi」。知る人ぞ知る隠れ家的な佇まいで、2025年3月に創業12周年を迎えました。扉を開けると、木のぬくもりと豆電球のやわらかな光に包まれた、わずか8席の特別な空間が広がります。

ノートをつくって理想のカフェを実現

カフェを始める前、飲食業とは異なるジャンルの仕事をしていた店主の内田夫妻。カフェが好きで、自分の店を持つことへの憧れはあったものの、経験のない業界への一歩はなかなか踏み出せなかったと夫の光信さんはいいます。
それでも、カフェ実現に向けて、全国各地の喫茶店を巡って撮った写真や、雑誌を見て「いいな」と思ったお店の切り抜きをノートに貼り付けていたとか。憧れや夢が詰まったノートをつくることで、理想のカフェを具体化していったそうです。

特に大変だったのは、2年以上かかった物件探し。直感で選んだ現在の物件は元パン屋。道路より少し低い位置にある入り口の扉が、半地下のような隠れ家的な雰囲気を醸し出しています。
転機となったカフェとの出会い
店主の内田さん夫妻が何よりも大切にするのは「静かに過ごせる空間」です。この静寂を守るため、来店は1グループ2名まで、そして店内での会話やパソコンの使用はご遠慮いただくといった、いくつかのお願いごとを設けています。

静寂を大切にしたカフェをつくることにしたのは、京都のとあるカフェとの出会いがきっかけになったという光信さん。そのカフェはとても静かで、自分の時間を穏やかに過ごせる場所でした。カフェとして、とても稀有な価値観を持って営まれていることに大きな衝撃を受け「自分もこんなカフェをつくりたい」という想いにつながったといいます。
メニューの主役は自家焙煎コーヒーと手ごねパン
「CAFE Uchi」の主なメニューは、夫妻それぞれのこだわりが詰まった自家焙煎コーヒーと手ごねパンです。

パンは、バタートースト、甘いパン、おかず系のパン、ライ麦のパンと種類の異なる4種盛り合わせで飽きないおいしさ。
●独学で習得した自家焙煎コーヒー
コーヒーは、喫茶店のマスターがコーヒーをいれる所作に憧れを抱いていた光信さんの担当。前職のアパレル会社を辞めた後、試しに自分で焙煎したコーヒーのおいしさが、自家焙煎コーヒーを提供するという挑戦を後押ししました。

焙煎もハンドドリップも独学で習得。京都の「玉屋珈琲店」から仕入れる豆を使ったオリジナルブレンドは、毎日飲み飽きない味を目指しながら、季節によって味わいやコク深さが調整されています。
●失敗が転機となった手ごねパン
パン担当は妻の久美子さんです。以前、自宅でのパンづくりに失敗し、手ごねパン教室の体験レッスンに参加。そこで自分の手で粉をこねて生地をつくる楽しさに目覚め、教室に通うようになります。夫婦でカフェをはじめるにあたっては、自然な流れで「じゃあ私はパンを焼こう」と思われたそうです。

奥:クッキー生地がアクセント『米粉抹茶メロンパン』
お店では、教室で習得した雑穀食パンやライ麦のパン。そしてお気に入りの米粉を使ったパンなど5~6種類と、季節野菜のキッシュを提供。基本的にイートイン用ですが、持ち帰りができる販売日も設けています。

「静寂」の先にある心の交流
静寂を大切にしているカフェだからこそ、お客様と言葉を交わす機会は多くありません。それでも、お店の想いが伝わり、お客様とつながりあっていることを感じられる瞬間があるそうです。
たとえば、通ってくれていた学生のお客様が就職で京都を離れる際、何も言わずに感謝の手紙を置いていってくれたこと。その後も遠方からわざわざ来店してくれたという出来事は「お店をしていなければこんな体験はできなかった」と、夫妻の記憶に深く刻まれています。

未経験からのカフェ経営という未知の世界に試行錯誤で取り組んできた内田夫妻。悩むことは多くても、二人が一貫して大切にするのは「静かに過ごせる空間」です。また「その空間を好きだといってくれる人が増えるように、お客様一人ひとりと丁寧に向き合いたい」と考えています。こうした想いがあるからこそ、これからも「CAFE Uchi」は誰かの心の居場所として存在し続けることでしょう。
京都旅行の折、観光地のにぎわいを離れて静かに過ごしたくなったら、ぜひ修学院の小さな隠れ家に訪れてみてください。
■CAFE Uchi