鴨川から二条通を東へ進んだところに、黒の水引暖簾を掲げる京菓子店があります。
「京華堂 利保(きょうかどうとしやす)」。明治36年(1903年)創業。そして令和4年(2022年)1月末をもって店を閉じられるそうです。
当初は六波羅蜜寺の近くで店を構えていましたが、戦時さなかの疎開で現地へ移転。重厚感ある町家の店内には、前の店の時代から使用している棚や箱を包むひもが垂れ下がるなど、レトロな雰囲気も満喫できました。
以前「京都いいとこマップ」では、名菓の一つ「しぐれ傘」を「京都のおみやげ」コーナーでご紹介しました。与謝蕪村の俳句を元に傘を表現した菓子で、やわらかく仕上げた羊羹をどら焼きの生地で挟んでいます。箱を開けると、真上から見た傘。切りわけて楊枝を差せば、閉じた傘になる遊び心。
ほかにも、大徳寺納豆を混ぜ込んだ餡を麩焼き煎餅で挟んだ茶菓「濤々(とうとう)」、松茸やタケノコの形をした「お汁粉 竹の露」、夏限定の淡いブルーの鮎菓子など、唯一無二のお菓子ばかりが並んでいました。とくに「濤々」は大徳寺納豆に対して苦手意識がある人にこそ、ぜひ一度試し見てほしい逸品でした。刻んだ大徳寺納豆をあんに練り込み、麩焼きせんべいでサンド。あまじょっぱさが見事に調和しています。
上生菓子は、一保堂茶舗の喫茶「嘉木」でも時々使われていました。知らずに食べたことがある人もいるかもしれませんね。
宝づくしの文様を描いた包装紙や紙箱のファンだという人も多いのではないでしょうか。
お菓子も包装紙もお店も、本当になくなってしまうのでしょうか。いまだに現実味がありません。一度だけの取材でしたが、とても丁寧に接してくださったのも記憶に残っています。寂しい、その想いで胸がいっぱいですが「京華堂 利保」が培ってきたもの。京都のどこかで今後も受け継がれていくことを祈ります。