京都宇治でつくられる「音色」の癒しを日常に

お寺や仏壇の前で鳴らす「おりん」の音。きっと誰もがどこかで聞いたことのある日本の音。この音色を作り続ける「南條工房」が宇治川の近くにあります。

創業は江戸時代。「南條工房」の「おりん」は「銅」と「スズ」という2種類の金属を溶かした「佐波理」という合金で作られています。奈良の正倉院にも「佐波理」製の宝物が保管されているそうなので、伝統ある素材なんですね。

「おりん」の製造は、まず空洞のある鋳型(いがた)作りから始まります。使う素材は土や粘土、お米のもみがらといった自然素材。使う水も雨水を貯めて利用しているとか。工房には型を乾燥させるスペースや棚がたくさんありました。

乾燥した型は、鋳造日と同じ日に薪をくべた窯で焼かれます。鋳造(ちゅうぞう)とは、熱で溶かした合金(佐波理)を型に流し入れる作業のこと。無知の素人からすると、鋳造前に型を焼いておいた方が効率的な気がするのですが、鋳型の温度も重要なポイントになるため、鋳造日と同じ日に焼くのだそうです。

「南條工房」では、月に2~3回行われる鋳造。
鋳型を焼く傍らで、炉では溶けた金属が火花を散らします。見学した季節は夏。工房は熱気でむんむん。鋳造作業の後、職人さんたちはオロナミンCでいっぷくすることが恒例になっているそう。私もいただきましたが、いつも以上に美味しく感じました。

窯で焼き終えた型は地面に並べ、炉で溶かした合金を流し込んでいきます。こう書くと単純作業のように思いますが、職人さんたちが目指す理想の音色のための金属配合比率、炉の温度、タイミング、鋳造日の気温や湿度。あらゆる事象を計算しながら作業されています。

佐波理を流し込んだら型を壊し、中身を取り出します。それからは表面を磨いたり削ったりと細やかな作業を繰り返し、私たちのよく知る「おりん」が完成します。

見た目の美しさももちろんですが、最大のポイントはやはり「音」。佐波理おりんの音色は、スーッと伸びるようなまっすぐ澄んだ音色が特徴です。

納品前にはひとつひとつ音色をチェック。職人さんの「耳」は厳しく、納得できない音の「おりん」は世には出しません。とはいえ、商品を破棄するのではなく、次の鋳造日に炉で溶かして再利用。失敗作も無駄にならないんですね。


使用後の鋳型もまだ使えるものは粉砕して再利用したり、土に混ぜるもみがらは近所の農家さんから分けてもらったり、サステナブルな側面もある「おりん」の製造。こうした取り組みは最近始めた特別なものではありません。昔から続けてきたことを今も続けているだけのことなんだそうです。

こうして作られる「佐波理おりん」の音色のすばらしさをもっと広めたい…その想いから生まれたブランドが「京都いいとこマップ」(9・10月号/2021)でご紹介している「LinNe」(りんね)です。

「LinNe」では、お寺や仏壇でしか使われていなかった「おりん」を日常生活に取り入れられるようにデザインした商品を展開。その一つが小さなおりん「Chibi(チビ)」です。

どうやって使うのかというと…
・ドアベル
・登山時の熊よけ鈴
・きものの根付け
・カバンなどのストラップ
といった小道具的な使い方をはじめ、
・ヨガ
・瞑想
・就寝前
・気持ちを切り替えたい時
・読書前
など日常的に取り入れる人もいるとか。

ほかにも
「瞑想を趣味とするパートナーへのプレゼント」
「亡くなった家族への弔いの想いを込めて」
などギフトのように使われることも。

ひとつひとつ手づくりされているので、色みや音色には個体差があります。できれば直接手に取って「これだ!」と思う自分の音色を見つけてほしいところですが、HPでは音色が聴ける動画もアップされており、オンラインでも購入可能です。全国での催事・イベント情報もアップされているのでチェックしみてくださいね。

「Chibi(チビ)」のひもの色は全4色(赤・黄色・黒・ピンク)。宇治の老舗「昇苑くみひも」の「京くみひも」を使用しています。ひもの結びの意味にも縁起の良い意味がこめられているんですよ。

初めて「Chibi」をじかに鳴らした時は、その伸びやかな音色にドキリとしました。日々の生活音にはない澄み切った音色が体の中にスッと入ってきたような感覚にハッと驚いたのです。南條工房の職人さんたちが「音色にこだわる理由」を理解できた気もしました。

京都に息づく伝統の技が生み出す音色。ゆったり耳を傾ける時間を生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。

南條工房 公式HP
京都いいとこマップを読む

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