阪急京都線「西向日駅」から歩いておよそ10分。向日市と長岡京市の境に位置し、桜や紅葉の名所として知られる「向日神社」からもほど近い、ゆるやかな坂の途中に「辻山久養堂」は店を構えています。

お店のルーツは、明治30年(1897年)に「向日神社」の参道脇で創業した同名の和菓子店。4代にわたって参拝客や地元の人々に親しまれてきましたが、約25年前、100年以上の歴史に幕を下ろしました。
そんな地域の名店を2024年1月、長岡京市の地に復活させたのが、創業者のひ孫にあたる辻山由紀子さんです。
地元の人の思い出の店、約20年越しの復活
辻山さんにとって「辻山久養堂」は父方の実家にあたります。子どもの頃はお母さんやお姉さんと一緒に、柏餅の葉を巻いたり粽(ちまき)のひもを結んだりと、お手伝いをした思い出があるそうです。
また、店内で量り売りされていたおかきを買って食べるのも、大きな楽しみだったといいます。

とはいえ、昔から「いつか和菓子屋になりたい」という夢を抱いていたわけではなく、大人になり、二人の子どもを育てながら長年地元の金融機関に勤務していました。
そんな辻山さんがお店の再開を志すきっかけの一つとなったのが、窓口業務を担当していた際、名札を見たお客様から「あの和菓子屋の辻山さん?」と声をかけられたことです。その時、「辻山久養堂」がどれほど地域に愛されていたかを改めて実感したといいます。

やがて子育てがひと段落し、50歳を迎える頃、「新しいことに挑戦するなら今だ」と一念発起。「辻山久養堂を懐かしんでくれる人たちに、もう一度あの味を届けたい」という想いが芽生え、20年越しの店舗復活を目指すことにしました。
突然の決意から始まった未知なる世界への挑戦。「こうしてお店をしている自分は、今も不思議な感じです」と辻山さんは微笑みます。
伝統のレシピ×現代の感性。工夫が詰まった令和の源氏巻
お店の復活にあたり、以前取り扱っていた商品を厳選。「源氏巻」と「おかきの量り売り」に特化したお店として再出発を切りました。

かつてのお店の銘菓だった「源氏巻」は、赤い羊羹で白あんを巻いた、渦巻き模様が印象的な和菓子。「向日神社の初詣帰りに買っていた」「祖母の家に行くと置いてあった」と、地元の人の記憶に息づく郷土菓子です。

まず辻山さんは、源氏巻づくりの経験があるお母さんとともに試作を開始。その後、3代目が書き残したレシピや、4代目だったいとこに実際につくっている様子を見せてもらったことで、復活への道が大きく前進します。
特に4代目の実演では、鍋で煮詰めている羊羹生地の固さなどを直接確認でき、大きな学びになったと開業前の日々を振り返ります。
さらに辻山さんは、現代のライフスタイルや状況に合わせ、さまざまな工夫を凝らしました。
●安心の自然素材
源氏巻の材料は、天然の天草100%でつくられた糸寒天、水あめ、鬼ザラ糖など高品質の国産食材を厳選。羊羹部分の赤色には熊本県産の野菜「ビーツ」のパウダーを使うなど、すべての商品で着色料は不使用です。

●彩り豊かな4つの定番
かつては紅白のみだった源氏巻に新しい色を加え、現在は計4種類を定番として展開しています。商品開発の際は、まず新しく用意したい「色」を決め、それに合う食材を吟味したそうです。

まず緑色の源氏巻『かぐや』は、乙訓(おとくに※)地域のシンボルといえる竹をイメージして抹茶を、深みのある茶色が映える『ほうじ』にはほうじ茶を合わせ、いずれも宇治産のお茶パウダーを使用しています。
※乙訓は京都府向日市、長岡京市、大山崎町で構成される、タケノコ産地として有名な地域。
そして、淡い黄色の『柚仔(ゆのす)』には、自家製のゆずジャムを合わせました。
●老舗製餡所に特注する白あん
白あんは当時のレシピをもとに、京都・東山の老舗「山梨製餡」へ製造を依頼。北海道産の大手亡豆(おおてぼうまめ)を使用した、こだわりのあんを仕入れています。

●手軽に楽しめるサイズ展開
1本売りは昔よりも少し小ぶりにし、現代の暮らしに合わせて手に取りやすいサイズへ変更。さらに、気軽に味わえる「1カット販売」や、ミニサイズの源氏巻を串に刺した可愛らしい『源氏巻串』も用意されています。

仕込みは朝6時からスタート。1時間半ほどかけて糸寒天などをじっくり煮詰めた鍋を、火からおろす時に現れる「羊羹生地の表面が宝石のようにキラキラと輝く瞬間」が好きだという辻山さん。こうした日々の手仕事が、しっとりと美しい源氏巻を生み出しています。
アイデアが光る!季節替わりの期間限定源氏巻
さらに訪れる人の心をくすぐるのが、季節折々の源氏巻です。
「昔の店舗では柏餅や水無月といった季節の和菓子も評判でした。そこで、季節の彩りを源氏巻で表現できないかと考えたんです」。
たとえば、冬から春にかけては大原野の農家から届くフレッシュないちごを使い、いちご大福に見立てた『いちびこ』が登場。
6月には伝統行事・夏越祓(なごしのはらえ)でいただく水無月をイメージした『渦水無月(うずみなづき)』、クリスマスシーズンの12月には洋菓子風の『キャラメルバター』など、見た目も味わいも心躍る限定品が季節ごとに楽しめます。

そして9月の限定品は、お彼岸の「おはぎ」をモチーフにした『萩の渦(はぎのうず)』です。
寒天に道明寺(乾燥させたもち米を荒く砕いたもの)を混ぜた羊羹で、丹波産粒あんを巻いたものと、こしあんで巻きあげてきな粉をまぶしたものの2種類を用意。
羊羹に道明寺を合わせると生地が固くなり、巻くのが難しくなるため、寒天の配合量を何度も試行錯誤したといいます。
もち米でつくるおはぎよりも軽やかな口当たりは、ご家族の間でも一、二を争う人気。お彼岸の時期はもちろん、お月見のお供にするのもおすすめです。
※2026年の「中秋の名月」は9月25日(金)
ワクワク感も持ち帰る「おかき」の量り売り
「辻山久養堂」のもう一つの名物が、店主自身も子ども時代に心を躍らせた「おかき」の量り売り。あの買い物の楽しさを今の時代にも伝えたいと復活させました。

縁あって昔と同じ業者から仕入れるおかきやあられは、常時8種類ほどをラインアップ。カウンターに並ぶ商品からお気に入りを選び、好きな量を購入できます。

タッパーや缶などマイ容器の持参も大歓迎。毎週お気に入りのおかきをマイ容器で買いにくる地元の小学生もいるほど、街の日常に溶け込んでいます。


京都旅行の思い出に、ストーリーの詰まったお土産を
街に息づく昔懐かしい食の記憶を受け継ぎながら、現代の感性とアイデアを加えて再出発した「辻山久養堂」。

地元の人が「街を離れた知人に食べてほしい」と買い求めたり、介護施設の方が利用者さんのために用意したりと、人から人へ、美しい渦を描くように笑顔の輪が広がっています。
懐かしくて新しい郷土菓子。旅の途中のおやつにはもちろん、京都の新しいお土産にもぴったりです。散策の合間に、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
■辻山久養堂
https://www.instagram.com/tsujiyama_kyuyoudou/
源氏巻を巻きあげるシーンも!「辻山久養堂」のショート動画もご覧ください。
