世界文化遺産「下鴨神社」や、賀茂川と高野川が合流する三角州のほど近く。地元の人と観光客が和やかに行き交う京都・出町のアーケード商店街に「茶房いせはん」は白いのれんを掲げています。

親から受け継いだ場所で、喫茶から茶房へ
出町で生まれ育った店主の伊藤さんが茶房を営んでいるのは、かつて父が日用品店を営んでいた場所です。20代の頃、両親の勧めをきっかけにこの場所で喫茶店を創業。当時はモーニングや軽食など幅広いメニューを提供していましたが、約20年前、特に評判だった和スイーツにメニューを絞り、現在の茶房へと姿を変えました。

お品書きに並ぶのは、あんみつ、ぜんざい、パフェ、そして夏場はかき氷。あんこはもちろん、わらび餅や抹茶ゼリー、白玉、黒蜜に至るまで、仕込みから盛り付けのすべてを店主ひとりが担っています。

そんな店主を支えるのは、家族の存在です。「忙しくて子どもの寝顔しか見られない日もありますが、休日に家族と過ごせる時間が何よりの活力」と語る伊藤さん。また、いつも来てくれる常連さんの姿や「今まで食べたあんみつの中で一番おいしい!」というお客様の声も、日々の励みになっています。
独学で辿り着いた、最高級小豆の自家製餡
喫茶店の創業時から、あんこは自家製。誰かに作り方を教わったわけではなく、本を読み、他店を食べ歩いて研究を重ねた独学のレシピです。よりおいしくなるようにと試行錯誤を繰り返し、ようやく自信が持てるようになったのは、あんこ作りを始めて5年が経過した頃だといいます。

喫茶店時代から一貫しているのは、大粒で高品質な「丹波大納言小豆」を使うこと。材料費が高騰する昨今、産地を変える選択肢もある中で、伊藤さんはその品質にこだわり続けています。自然が育む農作物ゆえに、その年の出来具合や気候によって炊き上がりは微妙に変化するもの。だからこそ、あんこと日々向き合う中で、会心の出来に仕上がった時は、作り手としての喜びを感じるそうです。
素材の風味を堪能、茶房のおすすめメニュー
「茶房いせはん」の自家製餡の魅力を存分に味わうなら、まずは『特製あんみつ』がおすすめです。

つややかに炊かれた丹波大納言小豆に添えられるのは、抹茶ときな粉のわらび餅、抹茶と黒糖のゼリー、寒天、白玉、黒蜜、そして生乳と豆乳をブレンドした後味すっきりのソフトクリーム。それぞれの素材の風味がしっかりと引き立ちながらも見事に調和した、ランチ後でもさらりといただけそうな一品です。

また、自家製餡を心ゆくまで味わいたい方は『ぜんざい』をどうぞ。

粒餡と、炊き上げる過程であえて粒をつぶした「つぶし餡」を掛け合わせてつくります。炊き方の異なる2種類のあんこを合わせる手法は、まさに「合わせ味噌」の感覚だそうです。
これからも守り続ける、誠実な味わい
茶房となって約30年。コロナ禍の最中には店舗を改装し、その際に始めたテイクアウトもすっかり定着しました。2025年にはパフェを刷新。御所南の名店「柳櫻園茶舗(りゅうおうえんちゃほ)」の抹茶を、より濃厚に堪能できる『宇治抹茶パフェ』として進化しています。

時代の流れとともに変えるところは変えつつも、上質な国産食材を使うこだわりに揺らぎはありません。「見た目の華やかさや広告に力を注ぐのではなく、シンプルでも、食べて安心できるおいしさを地道に提供していきたいんです」。

ひとつひとつの素材の旨みとやさしい甘みが広がる「茶房いせはん」の甘味には、店主の誠実な想いも溶け込んでいるのでしょう。店裏の川岸で京の風景に憩い、下鴨神社の参拝を終えた後は、手づくりの甘味で心身をほぐすひと時を楽しみませんか。
■茶房いせはん
