京都・西陣| 喫茶の枠を超えた取り組みで、誰かの居場所を紡ぐ「パーラー喫茶結社」の『暗躍』

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緑の先に広がる、穏やかな喫茶空間

千本上立売(せんぼんかみだちうり)のバス停からすぐ。生い茂る緑の合間へ足を踏み入れると、窓越しに6席ほどの小さな喫茶空間が見えます。お店の名前は「パーラー喫茶結社」。ミステリアスな店名に少し緊張するかもしれませんが、心配はいりません。扉を開ければ、店主が穏やかに迎えてくれる、あたたかな空間が広がっています。

喫茶開業の原点は学生時代

店主は東京出身のテラニシ・シュウヘイさん。彼が喫茶店を志した原点は、中・高生時代の経験にありました。もともと学校という場所に苦手意識があったテラニシさんは、家でも学校でもない「自分がここにいてもいい」と思える居場所を求めていました。それがどんな場所なのかを想像した時、頭に浮かんだのは、店主と客の交流を描く小説に出てくるような喫茶店やバー、あるいは本屋だったといいます。

そんなテラニシさんが喫茶の道を選ぶきっかけのひとつとなったのは、趣味のお菓子づくりでした。学生時代、部活の仲間に手づくりスイーツを振る舞ったところ「おいしい」と喜んでもらえたことが嬉しくて、飲食業への適性を実感。いつか社会に出て定年を迎えたら「誰かの居場所になれる喫茶店を開きたい」という夢を描くようになりました。

仕事での苦労が夢への道を加速

大学卒業後は、縁あって飲食関係の会社に就職。そこで待っていたのは、インドネシアでのカフェ立ち上げという大きなプロジェクトでした。しかし、慣れない土地の過酷な業務の中で心身を消耗し、『自分は飲食業に向いていないのではないか』という疑念がよぎるようになったといいます。

「知人から飲食以外の道もあると励まされましたが、自分には喫茶以外にやりたいことってないんじゃないか、それなら定年後なんて言わずに、今やれるところまでやってみようと思うようになりました。そうしないと前に進めない気がしたんです」。

帰国後、会社を退職したテラニシさんは「喫茶結社」という屋号を掲げ、店舗を間借りするポップアップ形式での活動をスタート。2020年、「世界文庫アカデミー」という学校への参加を機に京都へ移住します。その後も間借り営業を続け、西陣の現在地へ拠点を構えたのは2023年のことでした。

あらゆる人に寄り添う喫茶メニュー

「パーラー喫茶結社」のメニューは、じつに多種多様です。モーニングや月替わりのハヤシライス、手づくりプリン。さらには、間借り営業時代に出会った和菓子職人直伝の自家製あんこを使ったデザートまで。ドリンクもオリジナルブレンドのコーヒーをはじめ、ココアやハーブティーなど幅広く揃います。

2種類の味が楽しめる『あいがけハヤシライス』が人気
写真は『牛すじトマトハヤシ』と『菜の花とベーコンのレモンクリームハヤシ(2025.3月の限定メニュー)』
甘苦のバランスが絶妙『コーヒーぜんざい 丸ねこアイス最中添え』
暑い時期はアイスコーヒーで提供
つくってみると奥が深いという『カスタード・プリン』

メニューを充実させてきたのは、あらゆる人の喫茶時間に寄り添いたいから。お腹を満たしたい時、甘いものが必要な時、カフェインを控えたい時。どんな気分の時でも安心して足を運べるよう、テラニシさんは日々準備を整えています。

ラジオ、ZINE、イベント…喫茶の枠を超えた広がり

また、喫茶の枠にとどまらない取り組みもお店の魅力です。

たとえば、店主のひとり語りによるインターネットラジオ『喫茶結社のラジオ~カウンター席より愛を込めて~』。コロナ禍で思うように活動ができなかった時に始めたこの番組は、まさに喫茶店のカウンター席で繰り広げられるようなトークをテーマに配信しています。

そして、お店のテーブルの片隅に置かれたフリーペーパー『喫茶結社の“読む”ラジオ』。

「喫茶店を訪れる人は、必ずしも誰かと話がしたいわけではないですよね。そんな時でも、これを読むことでお店とのつながりを感じてもらえたら」。そんな想いを込めて、毎月制作されています。

店主との会話のきっかけにもなる『喫茶結社の“読む”ラジオ』

それから店内の本棚には、常連客(※1)が手がけたZINE(※2)や音楽作品を並べ、時には、短歌会や読書会といった店内イベントを開催しています。さらには、店主自身だけでなく、お客さんが制作した本も携えて『文学フリマ』などのブックイベントに参加することもあります。

こうした多角的な活動へのモチベーションを尋ねると、「喫茶店なのに『そこに力を入れるの?』と言われそうなところに注力したくなる性分なんです」と、テラニシさんは笑います。

短歌会を主催されたお客さん制作のZINE

そもそも「喫茶結社」という屋号には、お店が店主ひとりの城ではなく、喫茶という名のもとに集まった人々によって形づくられる場所でありたい、という願いが込められています。

来店されたお客さんはもちろん、ZINEや音楽の制作者、ラジオのリスナー、イベント参加者。そうした関わるすべての人によって、お店の輪郭は描かれていきます。西陣の実店舗を構えておよそ3年。年月とともに活動が多岐にわたっていくのは、このお店にとってごく自然なことなのかもしれません。

これからも誰かの居場所であるために

お店が掲げるコンセプトは『どんな言葉よりも、誰かが淹れる一杯が必要なときに暗躍する喫茶店』。

無理に話をしなくていい。何者かになろうとしなくていい。店主が淹れる一杯、空間のしつらえ、本や音楽、ラジオから漂う誰かの気配、あるいはイベントでの小さな集い。これらの何かが心に触れて、安らげる居場所となりますように。

そんなささやかな願いを秘めて『暗躍』する「パーラー喫茶結社」は、今日も西陣の街に小さな明かりを灯し、誰かの訪問を待っています。

■パーラー喫茶結社

https://www.instagram.com/kissakessha_parlor/

※1 「パーラー喫茶結社」における常連客の位置づけは、二度目の来店で常連客

※2 個人もしくは団体が、テーマ、内容、形式などすべて自由に制作・発行する冊子

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